坂本花織さんは、日本女子フィギュアスケートを長くけん引してきた選手です。世界選手権では2022年から3連覇し、現役最後となった2026年大会でも優勝。世界選手権で通算4度の世界一に輝きました。
オリンピックにも3大会連続で出場し、北京2022で銅メダル、ミラノ・コルティナ2026で銀メダルを獲得しています。JOCの公式プロフィールでは、団体を含めて銀3個、銅1個のオリンピックメダルが記録されています。
ただ、フィギュアスケートに詳しくないと「坂本花織さんは何がそんなにすごいの?」「4回転ジャンプやトリプルアクセルを跳ぶ選手のほうが強いのでは?」と気になるところですよね。
坂本さんが世界のトップで戦えた理由は、4回転のような大技の有無だけでは説明できません。スピードを保った滑り、ジャンプ前後の流れ、技の出来栄え、大会で崩れにくい再現性を一つずつ高めてきました。
本人も北京2022からの4年間について、スケーティングのクオリティとノーミスを重ねることで「点数の底上げ」ができたと振り返っています。
坂本花織は何がすごい?4回転なしでも高得点を出せた理由
坂本花織さんは、4回転ジャンプを試合の主力にしなくても世界選手権で4度優勝しました。難度の高いジャンプだけで得点を稼ぐのではなく、持っている技を高い質でそろえて得点につなげた選手です。
坂本さんの競技スタイルと実績を短く見ると、次のようになります。
| ジャンプ | 3回転ジャンプなどの出来栄えで加点 |
| 滑り | スピードと推進力を保つスケーティング |
| 世界選手権 | 通算4度優勝・5大会連続表彰台 |
| 五輪 | 3大会連続出場・個人銀と銅 |
| 現在 | 2026年に引退しプロ活動・指導へ |
ISUの公式競技記録では、2022年から2026年までの世界選手権で優勝4回、2位1回。オリンピックでも2018年、2022年、2026年の3大会に出場しています。
| 大会・時期 | 主な成績・記録 |
|---|---|
| 世界選手権 | 2022・2023・2024・2026年優勝 |
| 世界選手権2025 | 2位 |
| 北京2022五輪 | 女子シングル銅・団体銀 |
| ミラノ・コルティナ2026五輪 | 女子シングル銀・団体銀 |
| 平昌2018五輪 | 女子シングル6位 |
| 世界選手権2026 | 238.28点で優勝 |
4回転やトリプルアクセルを跳ばなくても勝てたのはなぜ?
女子フィギュアでは、4回転ジャンプやトリプルアクセルのような高難度ジャンプが注目されがちです。
確かに、回転数が多いジャンプほど基礎点は高くなります。しかし、フィギュアスケートの得点は「難しいジャンプを何本跳んだか」だけでは決まりません。
ジャンプやスピン、ステップなどには基礎点が設定されており、実際の出来によってGOE(出来栄え点)が加点・減点されます。さらに、演技全体についてもスケーティングスキル、プレゼンテーション、構成などが評価対象です。
そのため、高難度ジャンプを入れた選手が必ず勝つわけではありません。難しい技を成功させても、ほかのジャンプでミスが出たり、出来栄え点を落としたりすれば差は縮まります。
坂本さんは、通常の3回転ジャンプやスピン、ステップ、スケーティングを高い精度でそろえ、演技全体から得点を積み上げてきました。
坂本さんの得点源は、特定の大技1本ではありません。ジャンプのGOE、スケーティング、演技構成点など、複数の評価項目から点を積み上げられることが特徴でした。
JOCのインタビューで坂本さんは、北京2022当時について、4回転を跳ぶ選手たちに対して「相手のミス待ち」のように感じていたと振り返っています。
そこからスケーティングや一つひとつの技を磨き、自分の演技で得点を伸ばす方向へ変化しました。4回転に挑む選手とは異なる方法で、世界選手権を連覇できる得点構成を作ったことになります。
TEAM JAPANの公式YouTubeでは、元ペア日本代表の髙橋成美さんが坂本さんのすごさを映像とともに紹介しています。
坂本花織の得意技は?スピードを生かしたジャンプが強い
「坂本花織さんの得意技は何?」という点も気になるところです。
坂本さんは競技生活を通じて4回転ジャンプやトリプルアクセルを主要な武器にはしていませんでしたが、通常の3回転ジャンプやダブルアクセルの質には高い評価がありました。
特に特徴的なのが、速いスピードを保ったままジャンプへ入り、着氷後も流れを止めにくいことです。
フィギュアスケートでは、ジャンプに入る前に大きく減速したり、着氷した直後に流れが止まったりすると、演技全体が途切れて見えます。
坂本さんはスケーティングの推進力を生かし、助走から踏み切り、着氷後までスピード感を保ちます。そのため、ジャンプだけが演技から切り離されず、プログラムの流れの中に収まって見えるのも特徴です。
元フィギュアスケーターの町田樹さんも、テレビ東京の解説記事で坂本さんの推進力のあるスケーティングに触れ、ジャンプに入るときも着氷したあとも速度が落ちにくい点を挙げています。
高さや回転数だけで比較するのではなく、ジャンプ前後のスピードまで含めて見ると、坂本さんのジャンプが高く評価されてきた理由が見えてきます。
スケーティングスキルは世界選手権で9.82
坂本花織さんの滑りがどの程度評価されていたのかは、2026年世界選手権の採点にも表れています。
- コンポジション:9.68
- プレゼンテーション:9.75
- スケーティングスキル:9.82
- PCS合計:78.10
ISUの2026年世界選手権フリー公式結果では、坂本さんは158.97点を記録。技術点80.87に加え、演技構成点でも78.10という高い評価を受けています。
なかでもスケーティングスキルは9.82。10点満点に近い評価で、ジャンプ以外の部分も世界最高水準にあったことを数字で確認できます。
所属先のシスメックスも、坂本さんについて「力強いスケーティングと豊かな表現力」を武器に世界のトップレベルで活躍した選手と紹介しています。
坂本さんの場合、リンクを大きく使って速度を出しながら、ジャンプだけでなくステップや演技表現にもつなげていく点が得点につながっていました。PCS9.82という数字は、その滑りが単なる印象ではなく、採点でも高く評価されていたことを示しています。
坂本花織の世界選手権4度優勝はどれくらいすごい?
坂本花織さんを語るうえで欠かせないのが、世界選手権での成績です。
2022年に初優勝すると、2023年、2024年と3大会連続で世界一に。2025年も2位に入り、現役最後となった2026年大会で再び優勝しました。
世界選手権は毎年開催されるため、一度勝った選手が翌年も同じ状態で出場できるとは限りません。若い選手が次々に台頭する一方、プログラムはシーズンごとに変わり、体調やケガの影響を受けることもあります。
坂本さんはそうした変化の中でも、2022年から2026年まで毎年表彰台に上がりました。優勝回数だけではなく、トップ争いから外れなかった期間の長さも際立っています。
2022〜2024年の3連覇は世界で56年ぶり
2024年に世界選手権3連覇を達成した際、JOCは女子では世界で56年ぶり、日本勢では男女を通じて初の3連覇と紹介しています。
JOCスポーツ賞の発表でも、坂本さんの世界選手権3連覇は「世界では56年振り、日本勢では男女通じて初」と記録されています。
日本ではこれまでにも浅田真央さん、安藤美姫さん、荒川静香さんなど世界選手権を制した女子選手がいます。その中でも、3年続けて世界一になった日本選手は坂本さんが初めてでした。
さらに3連覇が途切れた2025年も2位。2026年には再び優勝したため、2022年から5大会続けて1位か2位に入っています。
2022年の初優勝だけをピークに終わらせず、翌年以降も優勝争いを続け、最終シーズンにもう一度世界一へ戻ったという時系列も特徴的です。
現役最後の世界選手権で238.28点を記録
坂本さんの競技人生を象徴する大会となったのが、2026年世界選手権でした。この大会は、坂本さんにとって現役最後の公式戦です。
ショートプログラムを1位で通過し、フリーでも1位。ISUの最終結果では、合計238.28点で2位の千葉百音さんを9.81点上回って優勝しています。
238.28点は2025-26シーズンの女子シングルでシーズンベスト1位となる得点でした。引退が決まっていた最後の大会で、ショートとフリーの両方を1位でそろえています。
しかも、この大会のフリーで記録したスケーティングスキルが前述の9.82です。競技生活の最終盤に、実績だけではなく採点上でもトップレベルの数字を残しました。
世界選手権優勝後、フジテレビスケート公式Xでは、坂本さんが晴れやかな気持ちで競技を終えられることや、競技人生への思いを語った会見の様子が紹介されています。
21年以上に及ぶ競技生活を、4度目の世界選手権優勝で終えました。
坂本花織のオリンピック実績|3大会連続出場で銀・銅
世界選手権だけでなく、坂本花織さんはオリンピックでも3大会にわたって結果を残しました。
女子シングルでは平昌2018で6位、北京2022で銅メダル、ミラノ・コルティナ2026で銀メダル。出場するたびに順位を上げています。
日本女子初の冬季五輪3大会出場
坂本さんは2018年の平昌、2022年の北京、2026年のミラノ・コルティナと3大会連続でオリンピック代表になりました。
JOCによると、フィギュアスケートで日本女子初の冬季五輪3大会出場です。団体を含めると、オリンピックでは銀3個、銅1個の計4個のメダルを獲得しています。
女子フィギュアでは10代の選手が一気に世界トップへ上がることも珍しくありません。その中で坂本さんは、2018年から2026年まで3大会続けて代表の座をつかみました。
3度の出場回数に加えて、2大会目に銅、3大会目に銀と個人順位を上げている点も特徴です。平昌ではメダルに届かなかった選手が、4年後と8年後には表彰台に立っています。
平昌2018は女子シングル6位、北京2022は銅、ミラノ・コルティナ2026は銀。3大会すべてで上位に入り、2大会目と3大会目には個人メダルを獲得しました。
北京の銅メダルから4年間で変わった勝ち方
北京2022で銅メダルを獲得した時点でも、坂本さんはすでに世界トップクラスでした。
ただ、本人は当時について、トップ選手のミスによって順位が上がったという感覚があり、自ら勝ちにいったという実感は薄かったと振り返っています。
そこから4年間で取り組んだのが、より難しいジャンプだけを追うことではなく、スケーティングや一つひとつの技の質を上げ、失敗したときにも得点が大きく落ちにくい演技を作ることでした。
その結果、ミラノ・コルティナ2026では銀メダルを獲得。北京では銅だった個人種目で、一つ上の順位に進んでいます。
世界選手権では北京五輪直後の2022年から3連覇し、2025年2位、2026年優勝。この4年間に積み上げたものは、オリンピックだけではなく毎年の世界選手権の結果にも表れました。
坂本花織が大舞台で崩れにくかった理由|「点数の底上げ」を重視
坂本花織さん本人が北京2022以降の変化として挙げているのが、「点数の底上げ」です。
ここで重要なのは自己ベストを一度だけ大きく伸ばすことではなく、試合ごとの得点が大きく下がらない状態を作ったことです。
ノーミスを積み重ねて得点の最低ラインを上げた
高難度ジャンプは成功すれば大きな基礎点を得られる一方、転倒や回転不足が出れば点を失います。
坂本さんは、自分が試合に入れる技を高い精度で成功させることに加え、スケーティングや表現面も伸ばしてきました。
JOCのインタビューでも、北京2022以降について「スケーティングのクオリティを上げる」という取り組みを続け、ノーミスを何度も重ねたことで点数の底上げができたと振り返っています。
これは「いつも完璧だった」という意味ではありません。ミスが出る大会があっても、ジャンプ以外を含めた得点源があり、大きく順位を落としにくい状態を作ったということです。
2022年から2026年の世界選手権で一度も3位以下にならなかった結果は、この考え方と重なります。
「大技がなくても勝てる」と次の世代へ伝えたかった
前半で触れた「4回転なしでも勝てた理由」は、採点や技術面から見た話でした。
一方、競技生活を終えた坂本さん自身は、その経験を次の世代へのメッセージとして語っています。
JOCのインタビューでは、大技ができずに悩んでいる選手にも、クオリティを上げれば勝つチャンスがあると知ってもらえたらうれしいという考えを明かしました。
4回転ジャンプを持つ選手とまったく同じ戦い方をする必要はなく、自分の得意分野を得点につなげる方法もある。そのことを、世界選手権4度優勝という結果で示した選手でもあります。
技術構成の違う選手が同じ競技でどう勝負するのかという点でも、坂本さんの競技人生は一つの例を残しました。
坂本さんは、4回転を持たないことを弱点として終わらせず、自分が伸ばせる技術を磨いて世界一になりました。本人は、その競技人生が大技を持たない選手の励みになればという思いも語っています。
引退後はプロスケーターと指導にも取り組む
坂本花織さんは2026年3月の世界選手権を最後に競技生活を終えました。
2026年9月時点では完全にスケートから離れたわけではありません。シスメックスの公式プロフィールでは、神戸を拠点にプロスケーターとして活動しながら、スケート教室などで指導にも取り組んでいると紹介されています。
競技者として培ってきたスケーティングやジャンプの技術に加え、大技がなくても得点を伸ばすために試行錯誤してきた経験を、今後はプロ活動や指導の場で伝えていくことになります。
2026年5月の引退会見では、生まれ育った神戸で子どもたちへスケートの楽しさを伝えていきたいと、コーチとして歩む決意も示しています。
坂本花織の強さと実績まとめ
坂本花織さんが残した主な実績と、競技上の特徴を振り返ります。
【今回のポイント】
- 世界選手権で通算4度優勝
- 2022〜2026年は世界選手権5大会連続表彰台
- 日本女子初の冬季五輪3大会出場
- スケーティングスキル9.82を記録
- 現役最後の世界選手権は238.28点で優勝
- 引退後はプロ活動と指導へ
坂本花織さんは、4回転の本数を競うのではなく、スケーティングやジャンプの質を得点へ変えるスタイルで世界選手権4度優勝まで到達しました。
2026年の現役引退後は、その経験をプロスケーターとしての活動や指導へつなげています。
